読むだけで強くなれる剣道ブログ

大学まで全国区だった元剣士が剣道を理論的に分析するブログ。剣道の上達法、使える技をご紹介

内村良一ほど理論的な剣道をする選手はいない

1.理論を細かいところまで具体的に理解し、
2.それを体現できるよう反復練習する。
剣道における上達法はそれしかない。多くの指導者は、「1」の剣道の理論のところを細かく具体的には教えてくれない。むしろ、指導者自身が大した選手では無い場合、試合で使える技、試合運びや駆け引きといったものをそもそも知らない。多くの剣士は自分で勝つための方法を探すか、自身で考え出さなければならない。そうしたとき、情報収集で最も容易なのが、トップ選手の試合を分析するという方法だ。幸いにも現在はyoutubeで簡単に剣道の試合の動画を観れるので、それを活用しない手はない。家でゴロゴロとスマホ片手にyoutubeを観るのも立派な見取り稽古になるのだ。
ということで、今後、このブログでは様々な剣道の試合の動画と共に見取り稽古を行っていきたい。

 

 
最初に紹介するのは、内村良一。この男を除いて他にはいないだろう。圧倒的な練習量と努力ばかりがクローズアップされるが、彼の剣道は全剣士が教科書にすべき、勝つための理論がみっちりと詰まっているのである。
まずはこの選手の特徴について。  
1.身体能力は高くない。
2.合理的な打突。
3.何でも打てる。
4.集中力。
5.勝率を高める試合運び。
第一に、彼の剣道が「教科書」となる理由は、【1.身体能力は高くない】からだ。他の剣士、例えば宮崎正裕選手や高鍋進選手、近年であれば竹ノ内佑也選手や梅ヶ谷翔選手は生まれつき持っている身体能力が高過ぎて真似できない。参考にしにくいのだ(当然、部分的に参考になるところは多くあるのだが)。内村選手の場合、身体能力は平均並みだ。他を圧倒するパワーやスピードは感じられない。あくまでこれまでの稽古で身につけた一つ一つの技や理論的な試合運びによって戦っているイメージを受ける。つまり、誰でも後天的な努力によって強くなれる、勝てる、ということを彼は示してくれているのだ。

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VS安藤翔選手。身体能力が高く、スピードのある相手に対してどう戦うかの良いお手本。先に構える、先に間合いに入る、など、常に先を取って戦う。

 

身体能力が高くない彼は一本を手にするため、【2.合理的な打突】を駆使して戦う。スピードはそれほどない代わりに、基本中の基本である「継ぎ足のない打突」を徹底。飛び込みメンは継ぎ足が一切無く、人一倍上半身を投げ出して竹刀を届かせようとするし、コテでもメンでも、「決め」の部分が秀逸で、一打一打を全力で一本にしようと「コテーーー!!コテ!コテッ!」という風に全力で一本にしようと「決め」にいく。そして、打突後はすかさず相手との距離を詰め、後打ちを許さない。

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VS小谷明徳選手。継ぎ足のない打突、「決め」の技術に注目。

 

彼の技は多種多様で、いわゆる「得意技」があるようには思えない。高校時代は九州学院特有の飛び込みメンをよく決めていたが、レベルが上がるにつれて、飛び込みメンの比率も下がってきているようだ。彼の強みは【3.何でも打てる】ことだ。薬剤師が患者の症状に合わせて薬を調合するように、相手に合わせて仕留める技を変える。コテ・メン・ドウ・突き・応じ技・引き技、何でも打てる。特に警察剣道の世界では一本になるのは、一瞬の「それしかない」という打突だ。「何でも打てる」という強みを持つことにより、その中から技を選択し、一本を可能にしているのである。ちなみに、九州学院時代の恩師・米田敏郎監督によると、彼は剣道の才能はそれほどないらしい。才能というと語弊があるかもしれないが、少なくとも「習ったことをすぐに出来る」タイプではないらしい。「他の子が1で出来ることを5ぐらいやらないと出来るようにならない子だった」と語っている。不器用ながら技が豊富な彼は、人の数倍の努力によってこれらの技を習得してきているのである。

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一つの得意技に頼ることはなく、数ある技の中から最良の技を選択しながら戦う。「何でも打てる」というのが最強の得意技となる。

 

そして、彼の剣道の一番素晴らしいところは、その【4.集中力】だ。終始それが途切れることはない。相手より先に構えを作り、先に間合いを詰め、攻める。打突は先に述べたように、全て全力で一本を取りにいく打突だ。観客も審判もそんな彼の試合を見ていると自然と彼の方に肩入れしてしまう。試合の印象が素晴らしく良く映るからだ。私が分析した限り、彼の集中力は「きわ」の部分でよく一本となって表れる。「きわ」とは、「打突後の一瞬」や「つばぜり合いになろうとした一瞬」、「当たらなかったときにもう一打つないで打つ」、といった流れの中での一本だ。それを可能にしているのが彼の終始途切れない「集中力」である。
 
彼は中学・高校・大学・警察と各世代においてトップを走り続けてきている。特に大学時代以外はすべてすべて団体・個人両方で日本一になっているという凄まじい戦績だ。その秘訣、【5.勝率を高める試合運び】について分析したい。彼の試合を見て誰しもが感じるのは「よく攻める」ということだ。先、先と攻めていく彼の剣道は攻めの剣道に見える。しかし、彼がその他のトップ選手と比べても攻撃力以上に抜きん出ているのが「守り」に関してである。試合の中での「危険」を徹底的に排除している。中途半端な間合いでの攻防はまずしない(器用な選手は逆に中途半端な間合いでの攻防を得意とする傾向にある:梅ヶ谷選手など。それが良くないわけではなく、あくまでタイプの話)し、打突後はすぐに相手にくっ付く・離れるといったことを徹底している。これにより、不用意に相手に一本を与えることは皆無だ。そして、一本を取ったあとは実によく守る。よく、一本を取ったあとでも攻めないと逆に危ないという指導者がいるが、(「剣道日本」などの雑誌でもこのような論調が多く見られる)それは誤りだ。一本取ったあとはまず守りありきで試合を展開しなければならない。一本取ったあとは鍔迫り合いはなるべく長くして時間を消化したほうが良いし、両者構え合った状態はリスクが高くなるのでなるべく短くしたほうが良い。守りを前提に、取り返そうと焦った相手が不用意に攻めてくるところに応じ技を合わせたり、後打ちを狙ったりするのがセオリーである。内村選手は警察剣道においても九州学院時代から教えこまれてきた試合運びを愚直に展開する。特に一本取ったあとの内村選手は「鉄壁」である。なお、世界大会の団体戦決勝、大将の内村選手は「引き分けで日本勝利」というシチュエーションであった。絶対に取らせないという試合運びで、しっかりと引き分けて日本を世界一に導いた。団体戦では展開に応じてこのような戦い方も出来なければならないのである。

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19:20〜 引き分けで日本勝利という状況で大将内村登場。打たせない剣道。

 
彼ほど「勝つ」ということにとことんこだわった剣道をする人間を私は見たことがない。彼は努力によってここまで強くなったとよく言われるが、私がそこに付け加えたいのは、彼は誰よりも剣道のことを考え、研究しているということだ。単なる努力だけで勝てるほど甘い世界ではないのである。そして、彼ほど剣道を楽しんでいる人間はいないのではないだろうか。なぜなら誰よりも剣道のことを真剣に考え、研究して、稽古し、誰よりも優秀な結果を残してきたのが彼だからだ。それに加えて、一切のおごりを見せない謙虚な人間性。現在のスポーツ界でナンバーワンの選手は、サッカーの本田でもなく、テニスの錦織でもなく、剣道の内村なのだ。