読むだけで強くなれる剣道ブログ

大学まで全国区だった元剣士が剣道を理論的に分析するブログ。剣道の上達法、使える技をご紹介

「常に足を作っておく」ことの大切さ 九州学院星子選手、神奈川県警勝見選手の「足」

f:id:Bekon:20160326202343p:plain

「右足を前に出し、後ろの右足は膝を少し曲げ踵を浮かせる」。基本的な「構え」の下半身である。剣士は皆、この足を土台として攻防を繰り広げるわけである。この足がなかったら絶対に打つことはできないし、守るのにも不利になる。これについて感じたことがあるので、記事を書いていきたい。

 

実は試合の始めから終わりまで切れ目なく、この足を"作っておける"剣士など一人もいないという事実をご存知だろうか。全日本選手権優勝者でも、試合の終始100%この足が作れているわけではない。何しろ、ずっとこの足を作るのは体力的にも集中力的にも不可能なことなのだ。つまり、誰しも「打てない」し、「守りにくい」瞬間が絶対にあるということだ。

剣道というものは集中力がものを言う競技である。試合を通しての精神的エネルギーの消耗は半端ではない。「気持ちを切るな」「常に(気を)張っとけ」とよく言われるが、実際に試合の始めから終わりまで100%ずっとMAXの状態で集中しておくというのは不可能であり、それをどれだけ100%に近づけられるか、というのが勝敗の大きな分かれ目とも言える。そして、その集中力を計るものさしが前述した「足」なのだ。

この「足を作っておく」という作業、「集中力」以外にも体力(持久力、筋持久力)もかなり必要とする。剣道していない人には絶対に理解してもらえないが、剣道という競技は体力的に非常にタフな競技だ。例えるなら、200m全力疾走した後に息を乱さずまた走れ、と言われているような場面がある笑。誰しもがちょっとだけ「抜きたい」場面があると思う。しかし、そこをグッとこらえて足を作って相手より心身ともに先んじる必要がある。相手より先に足を作り、気持ちも体もいつでも「出られる」「引ける」状態を作ることで「一本取れる」機会を増やし、「取られる」機会を消すのである。

「足ができている」「できていない」場面について、イメージしてほしいのは以下の◯と✕。足を作れている瞬間が◯、作れてない瞬間が✕。◯◯◯◯✕◯◯◯✕◯、というようにどこか足を作れてない瞬間が誰しもある。この✕こそが「足」が欠如した瞬間だ。✕になりやすい場面は、「集中力」「体力面」ともに抜きたくなる場面。具体的には、打ち合いなどから鍔迫り合いになる瞬間、鍔迫り合いから離れるとき、引き技などから一足一刀の間合いに入る瞬間などだ。よく「技をつなげ」とか「先に作れ」とか言われるが、それはまさに正解で、場面と場面のつなぎ目や間合いが離れたり近づいたりする瞬間の、ちょっとした「きわ」のディティールが勝敗を分けることになる。

 

この「足を作る」というのが勝敗を分けたのが下の全国選抜準決勝、九州学院VS麗澤瑞浪の大将戦である。動画と静止画をよく見てほしい。↓

www.youtube.com

10:15〜のコテ、10:54〜のメン

 

まずは最初のコテの場面

f:id:Bekon:20160424213345p:plain

一足一刀の間合いから

 

f:id:Bekon:20160424213410p:plain

星子選手が一旦、かつぎのフェイントを入れる。左足を引いて対処する小角選手

 

f:id:Bekon:20160424213719p:plain

星子選手、かつぎのフェイントを解消しつつ、間合いを詰める。一方、間合いを切りたい小角選手は右足を引いて距離を取ろうとする。つまり、後ろ歩きするような形(勇み足)で引いてしまった。ほんの一瞬であるが、これは明らかなミスと言える。静止画の通り、完全に足が死んでいる。本来の基本に基づくなら、もう一歩左足を引いて間合いを取るべきであった。

 

f:id:Bekon:20160424215027p:plain

そこに星子選手の打突が発動。足が崩れた小角選手は間合いを切ることができず、何とか打突を竹刀でよけようと面をかばう

 

f:id:Bekon:20160424215450p:plain

星子選手のコテが炸裂。星子選手がメンではなくコテに行ったのは、素晴らしい判断だった。【小角選手は間合いを切ることができない→竹刀でよけるしかない→とっさにメンをかばう→そこにコテ炸裂】という流れであったが、メンであれば防御が間に合ったように見える。

 

そして、二本目のメン

f:id:Bekon:20160424220252p:plain

星子選手が引き技を放つ

 

f:id:Bekon:20160424220344p:plain

そこから両者間合いを詰める

 

f:id:Bekon:20160424220423p:plain

通常のすり足で詰めていく星子選手。一方、小角選手は「歩いて」詰める。この時点で左足が前。そして次の一歩、

 

f:id:Bekon:20160424220536p:plain

小角選手が「歩き」から「構え」に転じたその瞬間、星子選手はすでに遠間から跳んでいた

 

f:id:Bekon:20160424220740p:plain

きれいに面を捉える。

通常のすり足で間合いを詰めた星子選手は心身ともに万全の状態を作り出していた。小角選手はギリギリのところまで歩いて構えようとしたが、その「歩き」と「構え」のまさに右足を出す一歩のところで遅れてしまった。勝負はこのように些細な「キワ」の場面で生まれたりするものである。

 

述べておきたいことを一つ。今回はたまたま九州学院の勝利に終わったが、当然、これだけレベルの高い試合であるので、夏までには形勢が逆転しているかもしれない。春はまだどの学校も未完成なのだ。そして、最初動画を見た時には麗澤瑞浪の強さに驚いた。私の時代には強豪校の一つに過ぎなかったのだが、全国大会でこれだけ上位入賞を繰り返している理由がわかった。10数年でかなりレベルアップしている。夏が楽しみだ。

「足を作る」ということに関して、「集中力」と「体力」が必要と述べたが、これを鍛えるには稽古しかないだろう。まずは、足を作ることがいかに重要か、この記事だけでなく、自分の試合の動画があればじっくり分析するのが良い。そして、自分が何%ぐらいの完成度なのかを把握することから始めるべきだ。そして、稽古は2倍3倍きつくなるが、常に足を意識。止まったら負けというイメージを強烈に刷り込んだ上で行うべきだ。ちなみに私自身も偉そうに記事を書いているが、この点ではてんでダメダメだった笑。気力も体力も無かった笑。これが重要な場面で勝敗を分けるのは分かっていたのだが・・・それほど大変なことなのだ。だからこそ足ができている人を心から尊敬するのである。

そして、この「足」の最高の見本となるのが以前動画でも紹介した勝見洋介選手。カウンターマスターである彼は、終始常に足を作り、絶対に集中力を切らさない。まさに「一瞬の中の一瞬」のカウンター技を駆使してトーナメントを勝ち上がる彼であるが、常に「先、先」という「作り」の早さと驚異的な持久力がそれを可能にしているように思える。「キワ」の「キワ」のところを丁寧に丁寧に紡ぎ上げて、一瞬の機会を見逃さないのが彼の剣道だ。そしてそれは「足」に表れている。彼は絶対に足を崩さない。ぜひその一点に注目して試合を見てほしい。↓

www.yomuken.net