今回は「ディフェンス」について。
私は大学まで剣道を続けてきて、あらゆる強豪校、あらゆるタイプの剣士を見てきた。例えば、九州学院のような必ず結果を出す学校、全国大会の個人戦で2年連続入賞する選手などだ。彼らは他の強豪校や力のある選手とどこが違うのか。答えは「ディフェンス力」に他ならない。
剣道の指導者に多いのが、ディフェンスを軽視している人。攻めのことしか指導せず、「攻撃は最大の防御」的な達観しすぎたことを言う。学生でその領域まで達することのできる剣士なんているのだろうか。
ディフェンスがなぜ大事なのか。剣道という競技は「一本取る・取られる」という割合がサイコロの目で決まるような競技だ。自分と相手の実力を見て、「3:1」であれば、自分が3本取る間に1本は取られるということ。これぐらい力の差があっても負けるときは負けてしまう。ではその「1」を「0.5」にできたら?・・・6本に1本しか取られない。格段に勝率を上げるための鍵となるのが「ディフェンス力」なのだ。
では、ディフェンスの基本的な考え方について述べていこう。何よりも重要なのが、ディフェンスの方法にはっきりとした優先順位をつけておくこと。優先順位は下の通り。
1 足でよける
2 竹刀でよける
3 体でよける
(一本取った後や団体戦で引き分けを狙うときは、1よりとにかく「くっ付く」を優先させるべき。「くっ付く」は時間を空費して打突そのものの数を減らすので。)
非常にシンプルだが、この通りである。1〜3の順に安全なディフェンスの仕方になっている。なるべく1のディフェンスを保つこと。3は完全に崩されたときの最終的な手段だ。
理想となる1のディフェンスについて説明したい。これは相手が間合いを詰めたり打ってきたりした瞬間にスッと引いて間合いをとるディフェンスだ。このディフェンスがなぜ理想かというと、間合いをとることで相手の打突が届かない距離に移動するわけであるので、取られる可能性がほぼゼロになるからである。また、一歩引いたとき、足が作れていればそこから攻撃に転じることができる。相手が再び打ってこようとした瞬間に出鼻技を浴びせることも可能だ。これの完璧な例といえるのが下の宮崎選手の動画。↓
47th All Japan Kendo Championship Final
6:35〜の出鼻面の場面を例に挙げる
(この動画は”歴代最強剣士”宮崎正裕のピーク時の試合である。剣道の歴史の中で確実に頂点に立つ試合だ。技のキレ、機会、相手の動きを見る”目”、鉄壁のディフェンス、全てが完璧。絶対に見てほしい)
彼のディフェンスの一例。↓
江藤選手が突きを放つが、足でササッと引く。その上、上体を反らして打突を届かせない。
江藤選手、突きからコテに変化。間合いが近くなったらしっかり竹刀でよける。その間も足は止めない
グッと引いて、体勢を立て直す
江藤選手、更に一歩詰めて攻める。すでに万全の状態の宮崎選手
相手の打ち気を感じ取ったのか宮崎選手、 グッと重心を下げる
江藤選手が左足を継いだ瞬間、宮崎選手のメンが発動。※通常なら江藤選手は左足を継がず、打つだろう(左足を継ぐのは、打突の起こりが見えるので危険)。このとき左足を継いだのはおそらく、宮崎選手が引いてディフェンスするのが上手いからではないか。つまり、左足を継がないと打突が届かないと感じていたのではないだろうか。
完ぺきに捉える
旗3本
このように、宮崎選手は相手との距離をしっかり取ることで、打突を絶対に触れさせない。この動画を見てもらったら分かると思うが、終始危ない場面が一度もない。完璧なディフェンスだ。
そして最も注目すべきは彼の足だ。彼は引いてディフェンスしつつ、左足を残し、常に自分も打てる体勢を作っている。解説の方もおっしゃっているが、守りつつ相手の打突を引き込んで出鼻を打つことができるのである。それがこの動画での出鼻面だ。
また、彼はかなり手元を上げてディフェンスするので、それを批判されることも多かったようだ。しかし、彼の素晴らしいところは手元を「上げっぱなし」ではないところ。手元を上げつつ足は休まない。くっ付くか離れるか、高速で足を動かした上で守っている。これでは打突が当たるはずもない。そして、次の瞬間には構え直して攻撃に転じているのだ。やりにくいことこの上ないだろう。
彼の剣道は「絶対に打たせない」ことと「常に打てる」ことを両立させた剣道だ。ここまで攻めと守りを完璧に融合させた剣士はいない。攻めも最強、守りも最強、それが宮崎正裕なのだ。
宮崎選手の本があります。これ面白いですよ。↓