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大学まで全国区だった元剣士が剣道を理論的に分析するブログ。剣道の上達法、使える技をご紹介

出小手は「引き出して打つ」。極めれば勝見洋介

最近は特定の技について記事が書けていなかった。中高生は今、試合前の一番大事な時期なので、あまり新しい知識や技を取り込む時期ではないという私なりの配慮があったのである・・・。ただ今回、「出小手」について書くのだが、この技を理論的に紐解くことによって、「打つ前の攻め」や「相手のタイプや動きを見極める」という副産物がもたらされると思うので、読んで損することはないと思う。

さて、この「出小手」という技、中学生ぐらいなら打てる人と打てない人がきっぱりと分かれるのではないだろうか。はっきり言っておくと、出小手は剣道上達のための登竜門だ。出小手無しの上達はありえない。なぜこの技が打てなければならないかというと、これが「カウンター」の技だからだ。カウンターの技を持っておくと、相手は好き勝手に打ってくることができなくなる。「今は大丈夫だろうか」「いつなら打てるか」。そう相手に思わせることが剣道の駆け引きの一つなのだ。

 

そして、この出小手という技、小学生、中学生ぐらいのときは結構得意技にしている人が多いのだが、高校、大学と進むに従って、意外に打てなくなる技でもある。案外奥が深いのだ。打てなくなる原因は「単なる感覚」で打っているから。中学生ぐらいのときは剣道は「リズム」であるから(打つ前の攻めや足さばきが単調子なリズムになりやすい)、タイミングさえ掴めば一本にするのは容易い。しかし、大人になればなるほど、「リズム」というのがなくなり、攻防が複雑化するので、打つのが難しくなってくる。それでも打てるかどうかはやはり、しっかりとした「理論」が頭に入っているかどうかである。

 

では、具体的な技の解説に移りたい。

以前、「出鼻技の基本」ということで、「1・2」のリズムで打ってくる相手に対する出鼻技の解説をした。そちらをまだ読んでない人は先に読んで欲しい。↓

出鼻技の基本。勝見洋介は剣道界のメイウェザー - 読むだけで強くなれる剣道ブログ

例えば、相手が不用意に「1・2」のリズムで面を打ってきた場合、事前の攻めなど何も無しにコテを押さえることができる(足が作れていれば)。だがしかし、相手はいつもそんなに分かりやすいタイミングで打ってきてくれるわけではない(勝見選手のように、意図的に引いたりして、相手を「1・2」のリズムに引きずり込む技術もあるが)。そこで今回は、「1・2」のリズムでなくても打てる出小手=「引き出す」出小手について述べていく。

 

まず、見てほしいのはこの動画。↓

www.youtube.com

栄花直輝氏の「面に対する応じ技」のレクチャーである。

彼が言っていることはシンプルで、「攻めて、打つ」「先に作って、打つ」といったことだ。これこそ出小手の最大の基本となる。

 

この場合の「攻める」という言葉の意味をもっと噛み砕いて説明する。それは以下の2パターンだ。

①間合いを詰める

②重心を前に移す

栄花氏は①②を忠実に体現しているので、再び動画を見てほしい。

基本中の基本は①だ。【間合いを詰める→相手は攻め気を感じる→打ってくる→出小手炸裂】という理想的な流れだ。

ここで、「攻め」の大原則を理解しておこう。↓

「攻め」とは - 読むだけで強くなれる剣道ブログ

「攻め」が効いているときの相手の反応は3パターン。「竹刀でよけようとする」「後ろに引く」「逆に打ってこようとする」、この3つだ。当然、「打ってこようとする」タイプにはカウンターが有効なので、頭に入れておけばよいだろう(普段からの対戦相手の分析が大事)。

スムーズな打突ができる人なら、②のように重心を前に寄せるだけで相手にプレッシャーをかけ、打突を引き出すことも可能だ。普段構えたときに体の中心に重心があるなら、相手の打突を引き出す瞬間は前(右足)の方に少しだけ重心を移してみよう。そうするだけで、自分の竹刀の剣先が10センチほど相手の方に近づくのが分かるだろう。それだけでもちょっとしたプレッシャーになる(「一歩入る」よりは弱いが)。より短い瞬間に相手の打突を引き出す場合は、こちらのほうが有効な場面もある。

そして、極めれば、

③引いて打つ

という技術もある。これに関しては以前、勝見洋介選手の記事に書いているので参照してほしい。

出鼻技の基本。勝見洋介は剣道界のメイウェザー - 読むだけで強くなれる剣道ブログ

この技に関しては多用するのは厳禁で、よほど足がしっかり作れている人でないと狙うべきではないと思う。そして、記事に書いているように、「1・2」のタイミングで相手が打ってくるときのみに合わせないと、逆に面に乗られること請け合いだ。ただし、足が作れているなら、「自分でも思いもよらぬところで勝手に体が反応していた」という次元で一本になるかもしれない。とにかく、勝見選手の「足」の素晴らしさは誰もが参考にするべきだとは思う。

 

ここで、「出小手を打つべきではないとき」についても述べたい。

それは単純明快なのだが、「ただ構えているとき」である(相手が分かりやすい「1・2のリズムで打ってきた場合を除いて)。一足一刀の間合いで「ヤー」と言って、ただ構えているとき。そういうときは出小手は打たないほうがよい。「構えていて、相手が面を打ってきて、自分は出小手に反応した」。正直、この状況でも出小手で一本を取れることもあると思う。しかし、それは結果論であって、相手の面と自分の出小手が五分五分の状況なのだ。自分が打つ確率を高め、打たれる確率を下げるのが勝負の鉄則であるので、「打突前の攻め」が十分ではないときにはカウンターというギャンブルには出るべきではないと思う。

理由はまだある。それは「重心」と「反動」の問題だ。「普通に構えているとき」は重心は体の中心にあるのが一般的だ。それは「攻めやすく、守りやすい」状態ではあるのだが、出小手という超瞬間的な技を打つ場合、どうしても「真ん中重心」では遅れてしまう。考えれば、上で説明した①も②も前の方に重心が移動している状態である。そのときのほうがやはり、瞬間的な技は素早く出せる。最低でも、②の「重心を前に移す」状態は作った上で打とう。

また、反動についても同じように、「ただ構えている」状態は「反動無し」の状態なので、瞬間的に速い打突は出しにくい。最高に反動をつけて、速い打突をするには①だ。「一歩入る」ことによって前に出る強い推進力を得られる。③に関しても、「瞬間的に引く→打つ」という動作は反動を使うことによって、「ただ構えている」状態よりはキレのある打突ができるだろう(左足を十分に活かしておかないといけないが)。

八段の先生方でも、「ただ構えている」状態からは小手を打っていない。必ず打つ前の「攻め」があるので、見てみよう。↓

www.youtube.com

 

そして、打ち方のポイント。

①事前の攻めで「引き出す」

上に書いた「攻め」こそが最重要。これがないと絶対に引き出せないということを念頭に置こう。

 

②相手の手元が上がる瞬間を打つ

相手が打ってきたのに応じるのではなく、「打とうとするところを押さえる」というイメージ。相手の打突の「起こり」、スタート時点を押さえる。下のイメージ写真を参考に。↓

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この時点で、攻めて引き出す

 

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この瞬間、技の起こりの起こり、発射直後を押さえること。この時点ですでに捉えておくイメージ(実際のタイミングはもう少し遅れるが、持つべきイメージはこれ)。

 

③踏み込みは「先」に

相手は面に出て踏み込む。自分は小手に出て踏み込む。この「踏み込み」の着床のタイミングを相手より速くすること。「先に着床」をとにかく意識すること。なぜかというと、下半身と上半身は連動するから。つまり、先に踏み込んだ分だけ竹刀が打突部位を捉えるまでの時間も速くなる。そうすることによって、始動のタイミングが若干遅れても先に打つことができる。近間の場合は「踏み込む」というよりは「足をほとんど上げずに床をパチンと鳴らす」という感覚で良いだろう。

 

④右足と頭は「左に入れる」

小手打ちというのは「裏」の技、相手の右半身を打つ技である。自分から見れば左側を打つことになるので、体を少しだけ左に向けて打突したほうが良い。よく、出小手のときに頭を右に傾ける人がいるが、これでは竹刀の方向と体の方向が逆になってしまい、打突に冴えが出ず、逃げ腰の出小手になってしまう。頭は少しだけ左に入れよう。そして、知らない人も多いと思うが、踏み込みの右足も若干、左寄りに踏み込むだけで随分と打ちやすくなる。

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栄花氏の出小手。頭と足は左に入れている。着床もご覧のとおり、完全に先だ。

ちなみに、打突後は右か左、状況に応じて抜けやすく後打ちを食らいにくい方向に抜けよう。

 

④打突は「軽く、触れるだけ」

出小手はカウンターであるので、打ちの強さは全く必要ない。指導者の中には「全ての打突を力強く」と教える人も多いと思うが、完全な間違いだ。出小手の打突は「軽い方がいい」。その方が速く、最短の軌道で打てる。打つ前は肩の力を抜いて、体全体を脱力させること。打突は「触れる」「刺す」という感覚を持てば良いだろう。

 

⑤打突の軌道は、上からでもなく、下からでもなく、「直線」で

多くの指導者は出小手に関して「常に上から打て」とか「上からと下から、2パターン打てるようになれ」と言う。それは正直、かなり分かりにくい説明だと思う。「上から」「下から」というのはあくまで結果論であって、相手の剣先が自分の剣先より下にあれば「上から」になるし、上にあれば「下から」になるのだ。一番分かりやすいのは「直線で打て」という説明だと思う。相手の竹刀の左側を滑らせるように、水平飛行するように竹刀を運ぶのだ。「小手を突く」という感覚に近いかもしれない。実際はそれでもちょっとは振りかぶるので、「上から」ということになるのかなあ・・・。上からという意識は要らないと思うのだが。

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赤が正解。

 

⑥後打ちや応じ技は怖くない

剣道では「これさえ打っておけば安心」という技はない。どんな技に対しても「応じ技」というものがあり、それぞれの技はじゃんけんのように互いを牽制しあっている。小手技に関しても「相小手面」「小手返し面」「小手抜き面」「小手すりあげ面」など、多くの応じ技があるのだが、レベルが上がるほど、それらの技はほとんど決まり手では見られなくなる。大学生の段階ですでに、「相小手面で一本」などはかなり少なくなる。つまり、高いレベルにある選手の小手技は応じ技に対応するのが非常に難しく、小手を打った後の体捌きも非常に洗練されているため、後打ちも難しい。この事実さえ知っていれば、練習あるのみだ。相手の相小手面の小手より先に打てるような小手を放てるようになろう。返し面を絶対に食らわないぐらい打突後の寄せを速くしよう。後打ちなど絶対にもらわない素早い体捌きを身に付けよう。小手技がじゃんけんのチョキだとしたら、グーに負けないチョキにできるのだ。

 

以上で「引き出す」出小手の解説とする。

一応、2日に渡って書きました(一つの技なのに、こんなに長くなるとは自分でも思わなかった笑)。眠いのを我慢して書いているので、誤字脱字、説明の抜けなどがあるかもしれません。もしあれば、後日訂正します(=o=;)とりあえず、公開!