読むだけで強くなれる剣道ブログ

大学まで全国区だった元剣士が剣道を理論的に分析するブログ。剣道の上達法、使える技をご紹介

山下忠典の"打てば決まる"不思議な引き小手

山下忠典。その名をご存知だろうか。中央大学在学中の4年間で関東個人を3度、全国個人も一度制した、大学剣道界における伝説のような人物である。

私は大学一年時に関東個人パンフレットの「歴代戦績一覧」を見て、この戦績に驚愕した覚えがある。個人戦なんて1回優勝するだけでも称賛に値することなのに、3回とは・・・。剣道をしている人なら誰でも分かることだと思うが、剣道は確率の競技である。例えば、自分と相手の実力が7:3なら自分の方が強いのだが、10回試合したら3回は負けてしまう。それゆえ個人戦で上位に進出するのは難しい。なのに3回優勝なんて・・・。おそらく彼は大学時代、よっぽど他の選手との力の差があったのだろう。そして、何か彼だけが特別な剣道をしていたのだろう。そう思わざるを得なかった。

「彼の大学時代の剣道を見たい。」現役時代ずっとそう思っていたのだが、当時は昔の試合のビデオなど手に入るはずもなかった。そして剣道をしなくなり、もう随分と月日が経った。

何気なく始めたこのブログであるが、技を解説するならばなるべく有名選手をお手本にして、その理屈の根拠にしたいと思っている。なので、空いた時間にyoutubeで有名選手の名を検索することが多い。

そしてある日、「山下忠典」その名が頭にふと浮かんだ。まさか無いだろう。検索。あった!

そこから小一時間、何度も繰り返したり0.25倍速にしたりして食い入るように動画を見た。彼の剣道はまさに驚愕だった。相手が攻撃の準備を始める前に執拗に近間に入り、流れるように連打を繰り出す。攻撃が止んだかと思えば、ノーモーションからキレッキレの引き技を浴びせる。相手は何もできない。何もできないというか、攻められまくって、自分の剣道を出す前に全てが終わってしまうという感じだ。こういう試合を関東や全日本の決勝や準決勝でやってのけるから困ったものだ。

 

そして、彼の技の中で最も印象に残ったのが「引き小手」。驚くというより、「えっ??」「決まったの??」「どうやって打ってるの??」というような、とまどいを覚える不思議な感覚。この技を何度も何度も動画で見て研究した。この技は、、、すごい。すごすぎる・・・。

 

まずは動画を見てほしい。↓

www.youtube.com

1:20〜の引き小手

 

www.youtube.com

0:25〜の引き小手

 

初めて見た。この打ち方はおそらく彼唯一のものだろう。教科書的なものとは全く違う打ち方だが、究極の技だ。オリジナリティ溢れる、ある意味「セコい」とも言えるこの技を静止画で解説していく。

 

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通常の鍔迫り合いの形から、

 

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左足を引いて、こっそりと打突の前の動作を起こす

 

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引き小手発動。でも何か不思議。まず、普通の打ち方であれば、この距離は打突が深くなりすぎる。また、右足は床についたまま。ここから踏み込んでも(右足を上げて着床しても)、打突と踏み込みが同時にはならないだろう(打突して、1テンポ遅れて踏み込み、となるだろう)。そして、体の反動を全く使えないので、キレのある打突もできないのではないか。

しかし、、、次の静止画で驚愕の体の動きが明らかになる。

 

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完璧に打突部位をとらえる。

きれいに当たっているのは、体ごと下に沈め、なおかつ、左手を更に下げて打っているから。この角度は普通の剣士では有り得ない笑。

そして、技にもキレがある。踏み込みはないのに?また、体の反動は使えないのではなかったか?

ここが最大のポイントで、彼はなんと、左足をクッと数十センチほど前に入れて、このわずかな動きによって、反動を作っている。

分かりづらいと思うので、普通の引き技の打ち方と比較してみよう。

【普通】右足踏み込み(着床)、同時に打突

【山下】右足の踏み込み無しで左足をわずかに前に出す(20〜30㎝ほど)、同時に打突

多分、ここまで読んでも理解できないと思う。これは一度「エア剣道」でやってみるしかない。右足は踏み込まずに左足をクッと前に入れて打つのだ。やってみたら、体がツイストしてるように感じるだろう。左足はちょっとだけしか動いていないが、これが有るのと無いのでは竹刀への力の伝わり方が全然違う。これが反動だ。踏み込みが無いことで打突がかなり速くなるのも「エア剣道」してみたら体感できると思う(予備動作一切無しで打突できる)。

そして、その後の引き方が次。

 

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打った後の一歩目は右足から引く。これが簡単なようで難しい。通常通り、左足から引く癖が付いてしまっているからだろう。

ちなみに、この後は通常の引き方と同じ。

 

 

もう一本の引き小手も打ち方は同じだ。こちらは防御の体勢からスタートだが、足の動きは全く一緒。↓

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以上で解説を終わりにするが、今回のこの技ははっきり言ってほとんどの方には理解はできても、実際には難易度が高すぎて打てない技だと思う。私も打てない。それでも、「隠し持った秘技として身に付けたい」という人の参考になればと思う。

今回、私自身が学べたのは、「本物」の凄さ。おそらくこの技は人に教えられたものではないと思う。彼が自分で編み出した技なのだ(おそらく)。こういうのを考え出せるのが凄い。私などは所詮、他人のパクリばっかりだ。既成概念にとらわれないその頭の使い方が羨ましくてたまらない。