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九州学院を分析する⑤ ”一本を「拾う」”

さて、今回は久しぶりに九州学院の分析をしたい。

こんな記事を書くのは遅すぎるのだが、3月末の全国選抜決勝の動画を見ての分析解説をしていく。

 

www.youtube.com

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↑こちらがその動画

 

さて、昨年はパーフェクトとなる高校三冠、その上にIH個人1,2位独占という大偉業を成し遂げた九学。さすがに去年は戦力がチート過ぎた。サッカーで言えば、クリロナ・メッシが副将・大将に控え、前三人もおそらく日本一の先・次・中だった。

そういう意味では今年のほうがより「九学の剣道」というのを実感できると思って動画を見てみたのである。

見終わって、「なるほど、、、これぞ九学。」そう思った。

 

さて、今回の決勝戦はVS水戸葵陵。

まず、何よりびっくりしたのが、水戸葵陵の選手たちの強さ。これ、やばくないすか?5人とも大将じゃないすか?

これは何も、敗者に対して気を使っているのではない。構えのゆとりと懐の深さ、遠間からの打突の伸び、フィジカル。多くの点で、水戸葵陵のほうが勝っているように思えた。

 

そして、皮肉なことに、その「優れている」部分が勝敗を分けた。水戸葵陵においては悪い方に・・・。

 

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結果的にはこのようなスコアになった。

勝敗のあやを分けたのは先鋒戦。

 

動画を見てもらったら誰でも分かると思うのだが、水戸葵陵の青木選手、とんでもなく強い。私は現在、全国の強豪校の試合など全く見ていないのだが、全国屈指の先鋒なのは間違いないだろう。スピードがある上に、遠間からもスコーンと跳ぶ。そして、「スピードに頼り切り」というわけではなく、先鋒としては珍しいタイプで、懐を深く使って「余して打つ」こともできる。

対する近本選手は典型的な九州学院の先鋒としての戦い方を身に付けている。無駄なことやリスクが高いことは一切しない。つまり、遠間から一か八かで跳んだり、中間での不用意な攻防などが一切ない。なおかつ、一瞬のすきがあれば決めてしまえるだけの足腰と瞬発力を保持している。「引き分け以上」を計算できる理想的な先鋒だ。

これは面白い展開になると思った。

勝敗を分けたポイントは序盤でみせた青木選手のおしい遠間からの飛び込み面と両手突きの2連発だ(上の動画、3:10〜)。

この2つはかなりおしい。面も突きもあと数センチというところだろう。

そして、その後に展開は動く。青木選手にしてみれば「いける」という感触を掴んだのだろう。積極的に技を出している。そして、そのほとんどが思い切りがよく、キレキレの技ばかりだ。

青木優位。多くの観戦者がそう思っただろう。

そういう空気が流れていた(多分)なか、両者相面に跳ぶ。

赤旗3本。

完璧に近本選手が相面を制した。その瞬間の静止画がこちら↓

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両者構えた状態から、

 

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青木選手が出る。「小手・面」のようなリズムで「一歩入って・面」を狙ったのだろう。この静止画はその「一歩入って」の瞬間。しかし、近本選手は足を残している。こちらも発車オーライの状態。

 

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相面は、リズムを読みきった近本選手が完璧に制する。

 

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旗三本。

 

この一本、足を残していた近本選手からしたら、カウンターとして一番狙いやすい「1・2」のリズムだ。つまり、青木選手の動きが「入って・面」=「1・2」となっているのだ。(この理屈についてはかなり詳しく述べているので未読の方はぜひお読みください↓)

出鼻技の基本。勝見洋介は剣道界のメイウェザー - 読むだけで強くなれる剣道ブログ

 

おそらく、青木選手の心理状況として、それまでの試合展開で「いける」というのがあったように思う。「1・2」のリズムの「1」のところで相手がちょっとでも躊躇したり中途半端に引くような動作を取れば、「2」の面に乗れると踏んだのかもしれない。

なので、これは本当に勝負のあやだ。序盤のおしい技がなかったらこの技は出していないだろう。また、序盤の技がもし決まっていたとしても打つことはなかった技だ。

そして、その一瞬の判断をモノにした近本選手。これこそが九州学院の強さだ。常に足を作って「出れる・退ける」状態を作っている。そして確実に一本を「拾う」。

 

この、一本を「拾う」というマインドが九学の真骨頂だと私は思う。「奪う」のではなく、「拾う」。

九学の特徴はその固いディフェンスにあると以前の記事にも述べているように、絶対に打たせず耐えて耐えて耐えまくるのが九学だ。そして、我慢を続けている中で「ここ!」という一本を拾う。そのマインドは先鋒から大将まで徹底されていて、その機会は5人試合をして一回しか来ないかもしれない。それでもその機会を確実に拾うのが彼らの剣道なのだ。

 

この試合においても、間違いなく近本選手は「引き分け以上」を狙って戦っている。つまり、絶対に打たせず、拾える一本があったら確実に拾う剣道だ。

一本の瞬間、しっかり足を作っていた近本選手からしてみたら、「来た!」という感触だっただろう。耐えて耐えてそれでも足を作り続けた結果、相手のリズムが完全に読めた一瞬が来た。そこの一本を確実に拾ったのである。これこそ九州学院だ。

 

そして、先鋒戦はそのまま終了。

次鋒戦以降も九州学院はメンツが揃いすぎている水戸葵陵相手に「耐えて耐えて、拾う」泥臭い戦いを展開する。

この後奪った(拾った)のは次鋒戦の一本のみとなったが、終始ディフェンス力抜群の「らしい」戦い方だった。

(次鋒戦の一本は「追い面」。これも完全に拾った一本だ。実に狡猾。)

 

ということで、以上、今回の試合レポートとなります。

分析しながら食い入る様に見たのですが、正直、かなり感動しましたね。

王者はメチャクチャ泥臭く戦っています。試合中の一秒一秒、やっていることはものすごく地味です。「当たり前のことを当たり前にやれ」という米田監督の教えがこういうところにも表れているんですね。

 

※以前の九学に関する記事はこちらのカテゴリーより。ぜひ読んでみてください↓

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