読むだけで強くなれる剣道ブログ

大学まで全国区だった元剣士が剣道を理論的に分析するブログ。剣道の上達法、使える技をご紹介

寺本将司のミステリアスな横コテ

寺本将司。私はこの人の剣道が好きだ。

今から十年ほど前に絶頂期を迎えていた彼の剣道は、どこか掴みどころが無いように見えた。長身であるがいわゆる正剣ではない。中心をガッツリ張るタイプではなく、ゆらゆらと剣先を漂わせ、あらゆる角度から打突部位を捉える。

近年の剣道界はまさしく「正剣ブーム」で、全日本選手権に出てくる選手は皆きれいな剣道をする(というより、高校生の時点で正剣すぎる)。実は私は「正剣」があまり好きではない。好きではないというより、そうではない剣士の試合を優先して見てしまう傾向がある。”正剣じゃないのに強い”そういう選手というのは必ず何かしら特筆すべきものを持っている。そしてその秘密を突きとめたくなるのだ。

寺本選手は完璧にそのタイプの選手にあたる。私の現役時代から彼の強さは知っていたが、数回試合を見ただけではその秘密をつきとめることはできなかった。そして今になってYoutubeのおかげで彼の剣道を深く分析できるようになったというわけだ。

一言で彼の剣道を表したいと思う。

”上下表裏の鬼”

である。

上を見せて下。下を見せて上。

表を見せて裏。裏を見せて表。

実に多彩に攻め分けをする。そしてそれぞれの攻め口に「決め技」を持っている。

今現在現役で剣道をされている皆様は、絶対に彼の剣道を研究したほうが良い。彼の攻め方は大半の剣士の参考になるからだ。(逆に高鍋選手や梶谷選手の剣道は参考にはならない。あれは真似出来ない。エンターテイメントとして観るのはいいが)

 

今回は彼の代表的な技の一つである、「横コテ(引っ掛け小手、メンコテ)」の解説をしたい(この技はブログ開設当初から解説したかったが、記事作成が面倒臭すぎて先送りにしていた笑)。

 

こちらが動画↓ 最初から「横コテ」!

www.youtube.com

 

 

この技、見ながら何か不思議な感覚に襲われないだろうか。そこまで速いわけでもない。特別なことをしているようにも見えない。しかし、警察特練相手にスパスパと面白いように決まる。

以下、静止画でその秘密を解き明かしていく。

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蹲踞から立ち上がり、

 

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相手は間合いを詰めてくる。このように、かなり近い間合いだ。

 

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この瞬間、「横コテ」発動!

ここが最大のポイントだ(うん!かなり地味!)。

☆近間から放つ

寺本選手はこの技をかなりの近間から放つ。それはこの一本以外でも同じであった。

理屈としては単純で、近間であればあるほど上(面)への脅威が増すからだ。特に飛び込み面が速い人、長身の人ほど上へのプレッシャーは強くなる。寺本選手の長身でこの間合いであれば圧力は凄まじいはずだ。

間合いの詰め方であるが、寺本選手は自分からガンガン詰めるのではなく、「自分は少し詰める+相手も詰めてくる→近間になる」というパターンが多かった。自分から行き過ぎるとフェイント技は白々しくなりがちなので、そのあたりも参考になると思う。

☆半円を描くような上へのフェイント

このフェイントは特徴的で、発見したときは「おっ!」と思ってしまった。

彼は必ず右から回すように(半円を描く、というのが一番わかりやすいと思う。静止画赤線参照)フェイントを入れる。真っ直ぐ上へ、ではない。

なぜか。おそらく、人間というのは攻撃されたときにその出どころを抑えようとする習性があると思う。だから、右から回すように竹刀を振り上げれば、その方向を抑えようとする。すると、手元は左による形になる。つまり、手元が空く。

また、「上か!よけよう!」と思って防御したときも、右から回すように上へフェイントをかけられているので、微妙にその防御が左側にスライドしてしまう(おそらく数センチ程度だと思うが、それが被弾へとつながる)。やはり、手元が空く、という理屈だ。

そして、この「半円」がもたらす軌道は、その後のスムーズかつ力強い打突へとつながる。その後は裏に、今度は上から裏へ半円を描くようにコテを打てばいいのだ。つまり、始めから終わりまでの軌道は縦長の円、例えるなら卵のような楕円を描くことになる。この軌道であれば、打突にかなりの威力が出る(「エア剣道」で試して頂ければ言っていることが分かると思う)。

 

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横コテ炸裂。真っ直ぐ上へのフェイントであれば、この防御の体勢は絶対にとらない。

ちなみに、上からコテへの打ち方であるが、寺本選手はそこまで特殊な打ち方はしていないように見える。角度として45度ほど。もっと角度が小さいときもある(上からの角度)。よく、真横から打とうとしている人がいるが、それはやめたほうが良い。ある程度は上から打たないと速く打てないし、強くも打てない。そして、その打ち方では旗を挙げない審判も多い。

なお、この技、「肘をたたんで打つ」という技術は必要だ。かなりの近間での技なので、根本打ちは避けたい。

 

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旗が上がる。

 

別の「横コテ」の場面でも上で述べたことは共通する↓

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4:15〜の横コテ

この間合いから、

 

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お互いに、出たり引いたりしていた刹那、この近間が生まれる。やはり、かなりの近間だ。

 

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ここから「横コテ」発動。

やはりフェイントは「半円を描くように」。この場面、相手は竹刀を抑えにかかっている。

 

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上から裏へ返す。

 

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きれいに打突部を捉える。

この場面、相手は途中で防御に切り替えたが間に合わなかった。もし、フェイントが「真っ直ぐ上」であれば?そもそも竹刀を抑えにいってないはずなので、防御は間に合っただろう。

 

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旗が上がる。

一つ前の一本と解説が共通しているのが理解頂けたと思う。

 

これ以外にも寺本選手はフェイント入れた左右の面や返し胴など、多彩な技を持っているので、是非見てほしい。勿論、その多彩な技のレパートリーがあってのこの技だ。面があるから小手が空く。小手をよけても面が空く。その「上下表裏」の理屈を最高レベルで体現しているのが彼の剣道だ。