読むだけで強くなれる剣道ブログ

大学まで全国区だった元剣士が剣道を理論的に分析するブログ。剣道の上達法、使える技をご紹介

何度でも蘇る内村良一の”余し面”

先日の全日本選手権では、ベテランの内村選手が準優勝という結果を残した。

私は決勝戦の動画のあと、以下の「一本集」の動画を何の気なしに見ていた。

www.youtube.com

そこで内村選手は同じような打突を何本も一本にしていた。リピート再生のように。

(1:22〜、4:48〜、7:09〜)

”なぜなんだ?”

不思議に思った私は何度も何度も繰り返し見てこの技を分析した。

その技は・・・”余し面”。「返し面」に見えるが、普通の返し面とは全く違う。技の理屈から言えば”余し面”の要素のほうが大きいと思う。

分析した結果、そこには驚異の技術と完璧な理論が詰まっていることが分かった。その技を今回は紹介したい。

 

1:22〜の一本↓

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一足一刀の間合いから、

 

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間合いを詰めていく。

 

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相手が打ってくる。

 

 

f:id:Bekon:20181110232828p:plain完璧な状態で受ける。ここが第一のポイント。

大きくのけぞったり、間合いを詰めたりしていない。必ず次の打突が出せる距離感、体勢で相手の打突を受けている。もし、大きくのけぞってしまえば、次の打突へ瞬時に移れない。間合いを切りすぎても相手は後打ちを警戒してしまう。もちろん、くっつくように受けたらそこから打突はできない。

ただ、ここからどう打つのか?相手は打突しているわけだから、このあと両者は密着することになる。すなわち、前には打てない。引きながら返す?これなら打突が当たる距離感は作れる。しかし、当然相手はそれを警戒して潰しにくるだろう。

それらの疑問点を全て解消する動きを彼は見せる。

 

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2コマ連続で見てみたら分かりやすいと思う。

”裏”へ刃筋を返しながら面。しっかり裏へ返しているのには理由がある。

剣道という競技はレベルが上がれば上がるほど、攻撃力以上にディフェンス力が優先して向上していく傾向にある。小学生より高校生の方が一本までの所要時間は長くなり、全日本選手権ではもちろん更に長くなる。そうなったときにまず無くすべきは、安易な後打ちや気の抜けたところで奪われる一本だ。なので、高校の全国レベルくらいになれば打突したらすぐその後の処理(打たせない)の動きが体に染み込んでいるのだ。

この内村選手の”裏”へ返す打突はその定石を逆手に取る打突である。相手からしたら、

打つ→当たらない→後打ちを防ぐ!

という動きになるのだが、その「後打ち」が”裏”にくるとは想定していない。だから対戦相手は皆、打突後、「正面をかばう動き」もしくは「くっつく」という対応を反射的に取ってしまう。内村選手はその相手の動きを見透かしたかのようにきれいに”裏”へ刃筋を返し、面を捉えているわけである。

更に驚くべきは足の使い方。

引き面を打つように少し引きながら右足を踏み込む。そのとき左足はなんと、浮かしている。もちろん、この動きにも意味がある。

もし左足が「受けたとき」のままだったら?当然、体全身が「受けた位置」をキープすることになる。そこから打つとしたら?相手は高速で体を寄せに来ている。打っても距離が近すぎて元打ちにしかならないだろう。

だが彼は「左足を浮かせつつ右足を引きながら踏み込む」(後ろにステップするような踏み込み、と言ったらわかりやすいかも。とにかく動画をスロー再生で見てほしい)ことによって全身を数十センチ後ろにずらしている。この距離であれば元打ちにはならない。事実、このように完璧に”裏面”を捉えることができているわけだ。

さて、これでしっかり面を浴びせることができた。しかし、ここからもなかなか難しい。打突後の”決め”の動きのことだ。

前に出たら?→相手とぶつかって”決め”の動きを潰される。

後ろに下がったら?→距離を潰されてかき消されるor安全パイな印象が残るため旗が挙がらない。

ではどうする?

 

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引きながら踏み込んだ右足はその後も一歩だけ引く。浮かせた左足はそのまま軸足として残しておく。そして、右足と体の向きを左前方へターン!

普通、この場合は後ろに引きながら”決め”にいくと思う。しかし、内村選手は左前方へと進む。これは一つの発明かもしれない笑。

まず、後ろに引くのと前に出るのでは審判から見た印象が全く違う。後ろへ引くのはどうしても「安全に後打ちを狙った打突だな」という印象が拭えない。展開によってはいくら完璧に打突部位を捉えても旗が挙がらない場合もある。しかし、「前方」であれば、「相手の打突をギリギリで見極めた高度な打突」かつ「前への意識がある攻撃的な打突」と審判は評価するわけだ。

なお、極端すぎるくらい「左」へ進むのにも理由がある。こうすることで”しっかり裏へ返して打ちましたよ”というアピールになる。また、相手とぶつかって”決め”がかき消されることもない。よって、審判の旗も迷いなく挙がるわけである。動画を観て一連の動きが何か”達人”もしくは”名人”と言っていいような味わいを感じるのはこういった理由によるものだと思う。

 

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こちらへ進んで、

 

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完璧な一本となる。

4:48〜、7:09〜の打突もほぼ同じ流れなので観てほしい。

解説は以上。

 

しかし、この選手は毎回観る者に感動を与えてくれる。以前こんな記事を書いたのだが、↓

メッシとクリロナ - 読むだけで強くなれる剣道ブログ

現状に満足せずに常に変わり続ける彼の姿をまたまた見せてもらった。内村良一という男は他競技のスターにも決して引けを取らない剣道界の宝だと思う。